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【書評】「助けて」が言えないーーSOSを出さない人に支援者は何ができるか

【書評】「助けて」が言えない--SOSを出せない人に支援者は何ができるか

こちらの書籍は、兵庫教育大学大学院の『心の健康教育に関する理論と実践』という授業の参考書に指定されているものです。

私自身、Gルート公認心理師として勉強すべき内容をまとめる記事を作成する中で出会いました。

▼Gルート公認心理師として勉強すべき内容をまとめた記事はこちら▼

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公認心理師としての勉強をする上で役立つ書籍であると言えるのですが、それ以上に、このブログをご覧いただけているであろう理学療法士等の非心理職の方にも一読いただきたいと思い、記事を書いています。

それくらい、私にとっては重要な問題について書かれた書籍です。

この書籍を紹介するにあたって、どのように分類すべきなのか非常に迷いました。

というのも、非常に多くの領域について書かれており、多くの領域で参考になる知見が書かれているからです。

多くの領域というと、次のような領域です。

  • 医療との関わり
  • 自殺・自傷
  • 薬物依存
  • 複雑性PTSD
  • いじめ
  • 教育現場
  • 虐待
  • 貧困
  • 認知症
  • 統合失調症
  • 被災
  • 性犯罪
  • 薬物問題
  • 依存症(アルコール、ギャンブル、ドラッグ)

このように、書かれている内容とその分野は多岐に渡ります。

多岐に渡る内容ながら、その根底にある問題意識は明確で、タイトルからもわかるように、「助けて」が言えないという状況、その心理について様々視点からの解説・考察が述べられています。

ということで、この記事および紹介する書籍をオススメしたいのは次のような方です。

こんな方にオススメ

  • Gルートで非心理職から公認心理師になった方
  • 全ての医療職
  • 全てのリハビリテーション関連職種
  • 人に頼る習慣がなく、生きづらさを感じている全ての方
  • 周りの人に「助けて」と言えない方
  • 気軽に「助けて」と言える方

この記事を書いた人

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この記事を書いた人

基本的には理学療法士ですが、公認心理師という資格を取得し、心理職としての知識を取り入れようとコツコツ勉強を進めています。

その過程で、本記事のように書籍の紹介を行っています。

「助けて」が言えないということ

あなたは、周りの人々に「助けて」と気軽に言えますか?

当たり前に周囲の助けを求めることができる方、それはあなたの長所の一つと言えます。

なかなか「助けて」と言えず、周りの援助を求めることができない方、生きづらさを感じていますよね。

もしかすると、それが当たり前すぎて、生きづらいと感じてすらいないのかもしれません。

そんなことを書いている私自身、周囲に「助けて」と援助を求めることには抵抗がある一人です。

本書では、このように「助けて」と周りの援助を求めることができる能力を、『援助希求能力』としています。

(『援助希求能力』は本書に限らず、自殺予防対策等で使われる言葉です)

そして、この『援助希求能力』が乏しい人というのは、様々な領域で問題を生じる方が持つ特徴で有り得ます。

なぜなら、「助けて」と言えないから。

支援する側の人間からすると、本人や当事者が一言「助けて」と言ってくれれば支援する方法・手段はたくさんあるのに、「助けて」が言ってもらえないため、手の打ちようがないのです。

いくら支援する側が手を差し伸べても、本人・当事者がその手を取ってくれなければ、なんなら払いのけてしまうようでは、支援者はそれ以上何もできなくなってしまうのです。

ただ、『援助希求能力』が乏しいというのを本人の責任に帰属して、「助けてと言えば良いのに」などと言ってしまって良いほど簡単な問題ではありません。

その人は、内心、助けを求める気持ちがありつつも、ソレによって偏見と恥辱的な扱いに曝され、コミュニティから排除され孤立するのを恐れてはいないだろうか。あるいは、生育歴上の逆境的体験のせいで、「世界は危険と悪意に満ちている」「自分には助けてもらうほどの価値はない」「楽になったり幸せになったりしてはいけない」と思い込んではいないだろうか。だとすれば、彼らは援助を求めない。こちらから手を差し伸べても、拒絶されるのは当然だ。

「助けて」が言えない--SOSを出せない人に支援者は何ができるか

いかがでしょう?

上の引用に心当たりはありませんか?

その心当たりは、当事者として共感できることかもしれないし、支援する側としてのものかもしれません。

つまり、自分自身が「自分自身に助けてもらうほどの価値はない」と思っているかもしれないし、「楽になってはいけない」と思い込んでいる方に支援する立場になった経験がある方もいるかもしれません。

「助けて」と言えない人というのは、あなた自身も含めて、あなたの周りにたくさんいるのです。

当事者も支援者も「助けて」と言えない

本書の巻末には、対談が掲載されています。

この対談は、岩室紳也さん、熊谷晋一郎さん、編者である松本俊彦さんによる三者対談です。

当ブログをお読み下さっている大半はリハ職の方かと思うので、熊谷さんの名前に反応された方が多いかと思います。

そう、『リハビリの夜』でお馴染み、当事者研究をされている熊谷晋一郎さんです。

この対談では、非常に重要なことが書かれています。

「助けて」と言えないのは当事者だけではなく、支援者の側も「助けて」と言うことができていない。

このことが当事者と支援者の分断を生み、スティグマを強め、お互いに歩み寄ることを難しくしていると。

お互いの立場で、「助けて」と言わないまでも、自分の弱みを見せ合いながら歩み寄ることができれば、「助けて」と言わなくてもいつの間にか助かっているという状況になれるのではないか、と。

詳しい内容は本書を読んでいただくこととして、ここからは本書に書かれた内容から普段の臨床(理学療法士として関わる場面)を振り返ってみることにします。

「助けて」と言えない当事者

当事者というのは、いわゆる患者さんです。

そこには脳神経疾患の方もいれば、整形外科疾患の方も含まれます。

私は訪問看護というサービスの形態で関わっていますが、病院での勤務経験もあり、過去の経験もひっくるめて考えてみたいと思います。

事実、「助けて」と言えない方は多いように感じます。

別に「助けて」という言葉それ自体を言って欲しい訳ではなくて、どのような症状があって何に困っているのか、どこがどんな風に痛いのか、退院した後(生活する中で)どんなことが不安に感じるのかなど、本人にしかわからないことを教えて欲しいと思うのです。

しかし、なかなか教えてくれない。

もちろん、相手はそれを意図的に隠している訳ではないはずです。

もしかすると(というか実際そう言われた経験があるのですが)、次のような理由で言えない方は多いかもしれません。

  • 「そんなことを言ったら迷惑に思われるかも」
  • 「感じていることを言葉にするのが難しい」
  • 「自分でも何に困っているのかわからない」
  • 「言われるまで自分がそんなことに困っているなんて思っていなかった」

気付いていながらもなかなか言えない・言葉にできない場合もあれば、問題それ自体に気付けていない場合もあるようです。

そしてそれは(医療者としては耳が痛い話になりますが)、あなた(この場合は私)と患者さんとの間に、「助けて」と気軽に言えるだけの関係性が築けていないことに由来するのかもしれません。

友達や家族のような関係を結べと言っている訳ではなく、医療者や支援者と患者や利用者という関係性の中で、この人には何を言っても否定されることはないという信頼感を持てる関係性を結ぶ必要があるのではないでしょうか。

別の本になってしまいますが、完璧に合致することが書かれていたので、紹介しておきます。

はっきりと思い出せるというのは、それを信じてくれるひとがいたときに起こる

信田さよ子・上間陽子: 言葉を失ったあとで, 筑摩書房, 2021

「助けて」と言えない支援者

前述した巻末の対談で議論された内容になりますが、支援者も「助けて」と言えません。

『自分は支援者だ』というセルフスティグマがそうさせるのかもしれませんが、マジメに仕事に取り組んでいる方ほどそうなりやすいのではないかと思います。

これまた私自身の経験ですが、理学療法士として働き始めた頃は、患者さんに症状や困りごとを相談してもらったとしても、上手く解決できませんでした。

新人として先輩に相談することはしていたと思いますが、それを相談してくれた患者さんに対して、「わかりません」が言えなかった。

その場でわからないことを「わかりません。明日までに調べて考えておきます」みたいなことは言っていたかもしれませんが、「わかりません。一緒に考えましょう。一緒に考えてください」とはならなかった。

これは、医療者の問題として解決しなければならないというセルフプレッシャーかもしれないし、医療者側で解決できるという一種の傲り(おごり)かもしれません。

その問題は医療者側の問題ではなく、患者さんにとっての問題なのに。

患者さんに対して医療職(この場合は理学療法士)が「助けてください」と言う場面はそんなにないと思いますが、患者さんの問題を医療職の問題として抱え込んでしまうことなく、「わからないので一緒に考えてください」「あなたのことなのでわかりません。教えてください」と言える関係性になることが必要なのではないかと思うのです。

まとめ

『「助けて」が言えない--SOSを出さない人に支援者は何ができるか』という書籍について、この本を読んで理学療法士として働く中での経験について考えたことを書いてきました。

ここまで書いた内容に少しでも共感される点があった方は、本書は多くの示唆を得られる本なのではないかと思います。

冒頭にも挙げたように、本書で扱っている内容は精神疾患を中心としていますが、その根底にあるのは人間一般、多くの現代人が抱えている問題であるように思います。

言葉にできない生きづらさを感じている方は、本書を読むことでその生きづらさを言語化できる一助が得られるかもしれません。

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