

リハビリって運動することがほとんどですよね。
言葉のリハビリとかならわかりますけど、リハビリに会話が必要ってどういうことですか?
喋ってる暇があったら、運動に取り組んだ方が良いのではないでしょうか。
確かに一般的な認識では、リハビリ=運動というイメージが強いですよね。
実はリハビリ、つまりリハビリテーションにおいて、運動というのはその中の一つの要素、ごく一部に過ぎません。
私が必要だと考えている『リハビリテーションカウンセリング』という概念もしくは取り組みも、リハビリテーションの一部と捉えて差し支えないと考えています。

一般的な認識として、リハビリ=運動というイメージが強いことは事実でしょう。
恐らく、リハビリというものがスポーツ選手などのケガから復帰するための取り組みとして世間に周知されたことに起因しているのではないでしょうか。
しかし、本来リハビリとは『リハビリテーション』の略で、この概念を日本語にすると、『人間としての権利を取り戻すこと』というような意味合いになります。
今回は『リハビリテーション』という概念の意味するところを確認した上で、『リハビリテーションカウンセリング』という概念を紹介したいと思います。
結論から言うと、リハビリテーションにおいて会話というのはとても重要だと考えています。
こんなアナタに読んで欲しい
- リハビリって運動のことでしょ?と思っている方
- 運動ばかりの機械的なリハビリに違和感を感じている方
- 病気やケガでリハビリを行っているけれど、効果・成果を実感できない方
- リハビリテーションカウンセリングという言葉に何か感じるものがあった方
リハビリテーション=全人的復権
そもそも、『リハビリテーション』とは何なのでしょう。
WHO(世界保健機関)によって1981年に出された定義では、次のようになっています。
リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。
リハビリテーション-Wikipedia
これが今のところ最古の定義であり、これを更新する形で様々な団体から定義が出されています。
例えば、日本においても地域リハビリテーション支援活動マニュアルで1999年に次のような定義が出されており、比較的新しい定義となります。
リハビリテーションとは医療保険・介護保険でのサービスのひとつであるとともに、技術であり、ひとつの思想でもあります。また、リハビリテーションは、医学、教育、職業、社会など、きわめて多角的なアプローチを必要としています。さらにリハビリテーションとはなによりも人権の問題であり、本来人権をもたない障害者に国や社会が恩恵・慈悲として人権を付与するものではありません。人が生まれながらにしてもっている人権が、本人の障害と社会制度や慣習・偏見などによって失われた状態から、本来のあるべき姿に回復させるのがリハビリテーションです。
リハビリテーション-Wikipedia
重要なのは、多角的なアプローチという記載です。
例えば、ケガが原因となって何らかの制限が生じている場合、その解決策は医学的な対応(手術等)と、その後の運動を中心としたリハビリとなります。
一方、精神疾患によって社会生活が困難となった場合もリハビリを必要とすることは多く、運動を行う場合もありますが、ケガのリハビリと比べると運動の比率は少なくなるというのは容易に想像できるのではないでしょうか。
具体的には、疾患に対する対応(投薬、カウンセリング、運動など)に加えて、環境調整を行う必要があり、その人が社会の中で生きていくために必要な資源の活用を考えていく必要があります。
つまり、リハビリと言うとケガから復帰するための運動やトレーニングが想起されやすいですが、実際にはそれは運動療法というリハビリの一部に過ぎず、リハビリ=リハビリテーションとはもっと広い概念だということです。
リハビリテーションはアメリカ発祥
リハビリテーションとはRehabilitation。英語です。
もちろん英語圏発祥な訳ですが、イギリスではなく、アメリカ発祥の概念です。
歴史から見ると、戦争によって負傷した兵士をできるだけ早くケガから復帰させ、再度戦地へ送るためのものとして始まったとされています。
その後、戦争による負傷だけでなく、病気やケガなどによって社会生活で困難が生じた人の復帰に向けた取り組みとして広がっていくことになります。
そんなアメリカのリハビリの現状は、日本の状況とは少し違うようです。
主に仕組みの違いですね。
例えば、理学療法士はphisical therapistなわけですが、アメリカではDoctor of Phisical Theray(つまり博士号)を取得した上で試験を受けて免許を取得する必要があります。
そんなアメリカの理学療法士は医師の指示を受けずに独自に診断・治療ができるという仕組みになっており、医師の指示が必須な日本の仕組みとは随分違っています。
リハビリテーションカウンセラーの存在
日本とアメリカとのリハビリテーションの違いでは、もう一つ大きく違うのが『リハビリテーションカウンセラー』という国家資格の存在ではないでしょうか。
これは日本には存在しない資格です。
日本で(特に日本語で)手に入るリハビリテーションカウンセラーに関する情報は少ないのですが、10年ほど前に藤田有香さんによって紹介されています。
実際、日本語の書籍としてリハビリテーションカウンセリングが紹介されているのはこの一冊しか存在しないようです。
アメリカのリハビリテーションカウンセリングは、日本においてはケアマネとか相談員みたいな位置づけになりそうです。
互換性があると言うより、近い位置づけにある、みたいなニュアンス。
しかし、アメリカにおけるリハビリテーションカウンセリングでは、活動の根幹にカウンセリングが必要、カウンセリングから始める必要があるということで、その資格の在り方や活動の内容は大きく異なるようです。
リハビリテーションカウンセリングを日本で調べていくと、大きく2つの概念に分かれて、一部で動きがあるようです。
一つは、職業リハビリテーションという分野におけるカウンセリング。
以下の書籍で紹介されていますが、2021年の本なので比較的新しい話題ですね。
もう一つは、ケガや病気を抱えた方に対する心理療法的な側面を持つカウンセリングとしての、リハビリテーションカウンセリングです。
私の知る限りではこのような取り組みが行われている病院は非常に少数(というかほとんどない)なのですが、例えば東京都リハビリテーション病院のホームページで紹介されています。
私が推したいのは、こちらのリハビリテーションカウンセリングです。
つまり、ケガや病気になった後のリハビリテーションにおいて、心理療法やカウンセリングという取り組みが必要なのではないかという話です。
既に行っている病院もあるため、それをもっと拡げた方が良いのではないか、という提案ですが。
リハビリテーションにおけるカウンセリングの必要性
ケガや病気を抱えると、気分も落ち込むのが普通ではないでしょうか。
そんな状態で将来への希望を見出すように促されたり、いきなり「目標を定めろ」なんて言われても、「よくわからない」「ちょっと今それどころじゃないです」となるのが普通ではないでしょうか。
だって、不慮の事故でケガを負って間もないときなんて、痛みと精神的ショックでそれどころじゃないですよ。
学生の部活中の事故やケガなら「休まないとならない」「レギュラーになれない…」とか「単位が足りなくなる」とか。
社会人であれば、「仕事休まないと」とか「これからの生活どうしよう…」となりますよね。
もちろん、元の生活に戻るためにリハビリ(=運動療法を中心としたもの)に取り組まなければならないというのは正論です。間違っていません。
けれど、人間の心・精神・感情というのはそんなに単純なものではないはずです。
私は理学療法士としてケガや病気を負った方とたくさん関わってきましたが、先のことに不安を抱えながらリハビリに取り組まなければならない方が多いということを実感してきました。
例えば入院中にそんな不安を吐き出せる相手がいるかといえば、ほとんどいないのではないでしょうか。
看護師やたまに面会に来られるご家族にそんな気持ちを話しても、「とりあえず今はリハビリを頑張るしかないから」と言われるのがオチです。
リハビリの担当(理学療法士等)に「気持ちが落ち込んでリハビリどころじゃないです…」なんて言おうものなら、リハビリを拒否する患者というレッテルを貼られる(これはかなり極端ですが)。
もちろん、ケガや病気になられても前向きにリハビリに取り組まれる方はいらっしゃいます。
しかし、精神的に不安定になってしまう方が間違いなく一定数いるという事実も考慮する必要があるのではないかと考えるのです。
リハビリテーションにおいて会話することの重要性
私は以上のようなことを考えながら理学療法士として働いているため、相手にもよりますが、たくさん会話をします。
特に現在は訪問看護ステーションに勤務しているため、リハビリをするために訪問するのではなく、あくまでも訪問看護(の中の主にリハビリの部分)をするために訪問するのが仕事です。
そのため、このようなリハビリテーションにおいて会話するという取り組みは実践しやすい環境にいます。
もちろん、訪問看護として関わる方(利用者さん)の多くは病院に入院してリハビリを受けた経験がある方が多いため、そのときのお話を聞く機会も多いです。
みなさんとは言えないまでも、「こんなこと言ったらおかしいと思われるのではないかと考えて誰にも話せなかった」とか、「こんな質問されたのは初めて。病院では聞かれなかった」などと言われる方は多いです。
それだけ抑圧された気持ちや感情、つまり人に言えずに自分の中だけに押し留めていた気持ちや感情が多いのではないかと考えられます。
会話を通して意味のある目標設定を
私たちは患者さん・利用者さんそれぞれのリハビリを行う上で、計画書というものを作成します。
これは病院でも、訪問リハでも、訪問看護でも変わりません。
この計画書には、『目標』という項目が必ず書かれています。
この『目標』というのは、誰が考えているでしょうか?
紙に書くのは私たちの仕事ではありますが、この『目標』を決めるのに、どれくらい時間をかけて会話がなされているでしょうか?
『目標』を設定するということは、患者さん・利用者さんの立場からすれば、その『目標』を達成した姿がイメージできる必要があると思います。
漠然とした『目標』は、そこに向かうための道筋が見えないため、達成できない『目標』となってしまいます。
患者さん・利用者さんは、どうかご自身の気持ちに向き合い、誰かに押し付けられた『目標』ではなく、ご自身の『目標』を定めて、それに向かっていただきたいと思います。
また、リハ職の我々は、患者さん・利用者さんとの会話を通して、ご本人が本当に求めていることに気付けるサポートをしつつ、『目標』設定を行うことが必要ではないかと考えます。
このような取り組みによって、運動としてのリハビリの成果も格段に上がっていくのではないでしょうか。

療法士さんに提案された目標をそのまま受け入れて、なんとなくそんなものだと思っていました。
運動としてのリハビリに取り組む前に、話し合うことも必要なんですね。
患者さん・利用者さんには、ぜひご自身の正直な気持ちを担当療法士に話してみて欲しいです。
なかなか勇気のいることなので、簡単にできるものではないですが。

まとめ

リハビリテーションにおける会話の重要性について、アメリカにおけるリハビリテーションカウンセリングを参考にしながら考えてきました。
ケガや病気を負った方の心理的なサポートが必要というのは、容易に想像できるのではないでしょうか。
また、目標設定も会話を通して行うことで、ご自身(患者さん・利用者さん)にとって意味のあるものになると考えられます。
現時点で日本ではリハビリテーションカウンセラーという資格は存在せず、心理職をリハビリテーションの担当部署に配置できている病院も多くはありません。
そうした現状では、患者さんとリハ職が積極的に会話することを心がけるのが一番現実的で重要な取り組みなのではないかと考えていますが、限られた時間の中で会話を十分に行い、不安な気持ちを吐き出すということも難しいのではないでしょうか。
また、リハ職も心理的なサポートを得意とする専門職ではないため、話題に出してもなかなか深い話ができず、患者さん・利用者さんも気持ちを話すのを諦めてしまう場面が少なくないのではないかと想像します。
リハビリテーションの文脈で、会話やカウンセリングといった取り組みを通し、心理的な面のサポートを行える体制が整っていくことを願っています。
病気やケガ、それに伴う生活の困難などに関して相談できる相手がいない、とお悩みの方
医療者との関わりはあるけれども、面と向かって不安な気持ちを伝えることができない、とお悩み方
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