言語学

話がかみ合わない?理学療法場面でコミュニケーションがとれない3つの原因と対策

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話がかみ合わない?理学療法場面でコミュニケーションがとれない3つの原因と対策
新人療法士

認知症でも失語症でもない方なのに、なんだかコミュニケーションがうまくとれない、話がかみ合わない患者さんがいるんだよな。

こっちの意図が伝わらなかったり、相手の意図がくみ取れなかったり。

日本語って難しい…

言語聴覚士さんは言葉とか言語というものを専門的に学びますが、理学療法士や作業療法士は学ぶ機会は少ないですよね。

言語というものが何なのかを少し知っておくだけで、話がかみ合わないときに適切な対応がとりやすくなります。

患者さんとのコミュニケーションをとる上で考えておきたい・知っておきたいポイントを解説していきますね。

まじぃ

リハビリテーション場面で『言葉』を大切にする、よく考えておくということのメリットは、こちらの記事でも解説しています。

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言葉は難しいもの

理学療法士や作業療法士は、言葉やコミュニケーションというものを詳しく学ぶ機会というのはほとんどありません。

せいぜい、「コミュニケーションは大事だよ」とか、「信頼関係を築きなさい」とか、言われたことがあるのはその程度ではないでしょうか。

そもそも言葉や言語とは何なのでしょう?

そんなことを知っておくだけで、コミュニケーションのどこで間違いや行き違いが起きているのかがわかり、対策をとれたりします。

また、コミュニケーション上のすれ違いを未然に防ぐことすらできるでしょう。

理学療法士や作業療法士がリハビリ場面で知っておきたい言葉の特徴として、次の3つがあげられます。

リハビリ場面での言葉の特徴

  • 言葉は記号。解読が必要
  • 言葉の意味は人それぞれ。辞書通りの意味で言葉を使う人はいない
  • 伝えたい感覚にアクセスできなければ、適切な言葉で伝えられない

この3つの特徴が理解できるよう、解説していきたいと思います。

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理学療法士として10年以上働き、たくさんの、様々な患者さん・利用者さんと関わる中で、言葉や言語、コミュニケーションの大切さを感じてきました。

そんな中で言語学を学ぶようになり、その考え方を紹介したいと考えています。

言葉とはなんなのか?記号です

一言で言うと、言葉とは記号です。

これだけ聞くと、「どういうこと?」と思われますよね。

私たちが何かを隣にいる相手に伝えるときに用いるのが言葉です。

いま口に入れた食べ物がおいしい。

そのことを目の前の友人に伝える。

そんなとき、どんな言葉を選び、伝えるでしょうか?

「おいしい」と一言言うだけかもしれませんし、食レポのように「○○が△△で□□みたいな味がする。おいしい」と詳しくその味を説明するかもしれません。

これは、味覚として感じられた感覚を言葉という記号に置き換え、声に出して相手に伝えるという一連の行為です。

その記号を受け取った(聞いた)方は、その記号を解読し、その味がどんな味なのかを自分の感覚に置き換えて理解しようとします。

「なるほど、そんな味なのか!」と。

さて、ここでコミュニケーションが上手くいかない可能性があります。

それは、感覚を記号として伝え、相手は記号を解読する、というプロセスです。

まず話し手は、味覚という自分の感覚を言葉に置き換えます。

このとき、感覚というのは非常に豊かなものなのですが、「甘い」とか「辛い」のような言葉に置き換えると、感覚の時点では非常に豊かだった情報がそぎ落とされてしまい、非常に単純な情報になってしまいます。

「おいしい」だけだと、どんな風においしいのか全くわかりませんよね。

そしてそんな豊かな意味がそぎ落とされた言葉を聞いた方は、その単純化されてしまった言葉から、豊かな意味を頭の中で再現しなければなりません。

これが解読するというプロセスです。

「甘い」だけだと、その食べ物が甘いことしかわかりません。

甘さには色々あるし、その程度も様々です。

甘さ以外に香りだったり食感だったり、色々な要素が合わさって、「おいしい」となるはずなのに、「甘い」しか情報がなければ、足りない情報を自分で補完するしかありません。

ここで話し手と聞き手それぞれの頭の中にあるその食べ物の味に関する情報は、食い違ったものになってしまうのです。

食べ物を例にあげましたが、リハビリ場面でもこのようなすれ違いはよく起こるのではないでしょうか。

同じ言葉も意味は人それぞれ

もう一つ、言葉を介したコミュニケーションには問題があります。

それは、辞書通りの意味で言葉を使う人などいないということです。

みなさん、「リンゴ」って知ってますか?

リンゴ(林檎、学名:Malus domesticaMalus pumila)とは、バラ科リンゴ属の落葉高木、またはその果実のこと。植物学上はセイヨウリンゴと呼ぶ。春、白または薄紅の花が咲く。人との関わりは古く、紀元前から栽培されていたと見られ、16世紀以降に欧米での生産が盛んになり、日本においても平安時代には書物に記述がみられる。現在世界中で生産される品種は数千以上といわれ、栄養価の高い果実は生食されるほか、加工してリンゴ酒、ジャム、ジュース、菓子の材料などに利用されている。西洋美術、特に絵画ではモチーフとして昔からよく扱われる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/リンゴ

Wikipediaによると「リンゴ」とはこういうものなのですが、ここまで知って「リンゴ」と言っている人はあまりいないのではないでしょうか。

「赤くて丸いあの果物」くらいの認識・理解で言うのが普通だと思います。

そして、この「赤くて丸いあの果物」という理解やイメージはどこから出てくるのか。

それはそれぞれの経験から来ているのです。

ですから、仮に青リンゴしか見たことがない人がいたとすると、「リンゴ」と聞いて出てくるイメージは「青くて丸いあの果物」というものになるのです。

このように、同じ言葉であっても、人それぞれ理解の仕方や解読の仕方が違うのです。

これもまた、言葉を介したコミュニケーションを難しくする一つの要因です。

感覚にアクセスできない問題

リハビリ場面では、病気やケガを負った方とコミュニケーションをとることが必要です。

そんな患者さん・利用者さんは、ご自身の感覚にアクセスできているでしょうか?

わかりやすい例を挙げると、脳卒中の方なんかは感覚障害が強く出ている場合がありますよね。

感覚障害が強い脳卒中後の患者さんが言われる感覚に関する言葉は、そこから私たちが解読して理解できる感覚とはどの程度一致するのでしょう?

また、そもそも患者さんが言葉として伝えようとするのは、わからなくなっている感覚です。

わからないものをどうやって伝えているのでしょう?

その言葉には、患者さんが本当に伝えたい感覚が含まれているのでしょうか?

ケガを負った方も同様です。

人は痛いところがあると、痛い以外の感覚は無視してしまいがちです。

本当はどのように痛いのかを詳しく伝えることが難しい理由です。

また、痛み以外にも大切な感覚があるにも関わらず、「痛い」としか言えなくなるのです。

コミュニケーションを円滑にする心構え

このように、当たり前に使っている言葉というのは、実は複雑なものです。

「言葉で正確に理解しあうなんて無理じゃないか!」

「コミュニケーションなんて上手くいかなくて当然じゃないか!」

なんて言葉が聞こえてきそうですが、その通りだと思います。

それでも、リハビリテーションやリハビリ、理学療法等を進めていく上では、コミュニケーションをとることは必要不可欠です。

では、どのような対策が考えられるのでしょう?

言葉について理解する

まず、ここまで解説してきたような言葉の特徴を知っておくことです。

このような事実を知っているのと知っていないのでは、コミュニケーションが上手くとれていないときの対応が大きく変わります。

理学療法士や作業療法士は、問題を見つけ、それが一連のプロセスのどこにあるのかを見極め、解決策を探ります。

言葉やコミュニケーションの場合も同様です。

何かを伝えようとして言葉を選ぶ、声で言葉を伝える、受け取った言葉を解釈する。

この一連のプロセスで、どこに問題が生じていたのかを考える。

具体的には、違った言い方でもう一度説明してもらうことが有効かもしれませんし、言われた言葉の意味をもう一度考え直してみるのが良いかもしれません。

そもそも相手はどのような年齢で、どのような時代を生きて、どのような生活をしてきたのか、そういった背景を理解した上であれば、その言葉の意味を解釈する上での助けになるでしょう。

「リンゴ」という言葉が持つイメージは、その人のこれまでの経験によって様々であるのと同様に。

時間をかけて、繰り返し話し合うしかない

このような言語の特徴を考えてみても、お互いに理解が難しいときは難しいものです。

そんなときは、一つの言葉について、時間をかけて話し合ってみるしかありません。

「あなたの今言われた痛いという感覚を、もう少し詳しく説明してみてもらえますか?」

「あなたの説明から、私はその痛みをこういう痛みだと理解しました。合ってますか?違和感や違うところは有りますか?」

このような問いかけして会話を続けることで、その言葉の持つ意味、そしてその先にある患者さんが療法士に伝えようとした感覚が理解できてきます。

そして、このような問いかけを繰り返すからこそ、患者さん自身もよくわからなくなってしまった感覚にアクセスして、より豊かな感覚を取り戻すことができる可能性があります。

これにはとても多くの時間が必要です。

しかし、時間をかけずに不十分な理解のままで大切な言葉をスルーしてしまうと、その後リハビリや理学療法等が行き詰まったり、コミュニケーションエラーによって関係性が崩れてしまう恐れがあります。

コミュニケーションや言葉の共通理解を作ることは、多くの時間をかける価値のあるものだと思います。

まとめ

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コミュニケーションがとれると信頼関係が生まれる

言葉とは何なのか?ということについて解説してきました。

伝えたいポイントは、次のものでした。

リハビリ場面での言葉の特徴

  • 言葉は記号。解読が必要
  • 言葉の意味は人それぞれ。辞書通りの意味で言葉を使う人はいない
  • 伝えたい感覚にアクセスできなければ、適切な言葉で伝えられない

このことを知っているか知らないかで、コミュニケーションのとり方は変わりうると思います。

言葉の意味を考えることは時間がかかる作業かもしれません。

しかしそれは、患者さんにとっても療法士にとっても、多くのメリットがあるものです。

時間をかける価値は十分にあると思います。

この機会に、言葉というものを学んでみてはいかがでしょうか。

関連書籍紹介

リハビリテーション場面で会話をすること、時間をかけてコミュニケーションをとることの重要性が感じ取れる一冊。

痛みに関する理論的な記述もありますが、患者さんと療法士との会話も詳しく書かれており、言葉を丁寧に扱う臨床というのがイメージしやすくなっています。

理学療法・作業療法で言葉を考える必要なんてないよ!という方に読んでみていただきたい書籍です。

今回解説してきた言語に関する理論・知識は、全てこの一冊に書かれています。

非常に分厚く、内容も重厚な一冊です。

今回の記事で紹介したのは、この本で言えばごく一部。

言語や言葉についてもっと詳しく知りたい・学びたいという方には非常にオススメの一冊です。

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