

理学療法って運動療法がほとんどだよね?
言葉を大切にするって、言語聴覚士の話?
『言葉』の障害に関しては確かに言語聴覚士が専門ですが、理学療法士や作業療法士も『言葉』という要素を考え、活用すべきと考えています。
今回は、それがどういうことなのか、なぜ必要なのか、そのメリットについて書いていきたいと思います。

リハビリテーション、特に理学療法や作業療法といった場面で『言語』を重視しましょうと言っても、違和感を持たれる方が多いかもしれません。
特に理学療法場面では運動や練習を行うので、言語聴覚士による言語訓練のように『言葉』を中心に考える機会は少ないはずですから。
リハビリテーションにおける運動については、こちらの記事で解説しています。
でも、私たちは日頃から『言葉』というものは当たり前に使っていて、リハビリテーションにおいても当たり前過ぎるくらいにすでに『言葉』つまり会話をしています。
この当たり前に使われている『言葉』について知り、考えることによって、色々なメリットが考えられるのです。
理学療法場面で『言葉』を大切にする

リハビリテーションで『言葉』を大切にすることで得られる3つのメリット
- 本人にしか分からない感覚や経験を共有できる
- なぜそのような動き・症状になっているかを考える手がかりが増える
- 適切な病態解釈ができることで、適切な対策・対処が行える
なぜこのようなメリットが得られるのか、そのためには『言葉』をどのように考え利用すれば良いのか、解説します。
こんな方にオススメ
- リリハビリテーションや理学療法を行う中で、思うような成果が得られない理学療法士や作業療法士
- 対象者とのコミュニケーションに苦手意識を持っている理学療法士や作業療法士または言語聴覚士
- 自身の体の状態や症状を相手に伝えることに苦手意識を持っている全ての方
この記事を読むと…
- 自身の体の状態や症状を伝えやすくなる
- 相手の体の状態や症状を捉えやすくなる
- いわゆる『リハビリ』の効果・成果の向上が期待できる
- 『リハビリテーション』におけるコミュニケーション能力が高まる
この記事を書いた人

理学療法士のまじぃです。
理学療法士として訪問看護ステーションに勤務していますが、先日『公認心理師』という資格を取得しました。
あくまで資格の話ですが、身体と心の両方をみる立場です。
そんな立場からの視点で、『言葉』について書いていきます。
『言葉』とは何か?なぜ『言葉』なのか?
冒頭でも書いたように、リハビリテーションにおいて『言葉』を考える・重視するというのは、正直あまり一般的に強く言われていることではありません。
一般的にリハビリテーションで『言語』と言うと、言語障害に対して言語聴覚士が中心となって行われる言語療法をイメージすることが多いでしょう。
しかし、ここで言っているのは、理学療法士や作業療法士が『言葉』を丁寧に扱うことの必要性、そしてそれによるメリットです。
まずは『言葉』というものが何なのかから解説していきたいと思います。
言葉って何?言語って何?
『言葉』と言えば、私たちが日常的に会話の中で使っている『言葉』をイメージされるでしょう。
その通りです。その『言葉』です。
言葉(ことば)
音声や文字などにより表され、特定の意味を伝達する手段となる表現および表現の体系のこと。
実用日本語表現辞典
言葉というのは音声や文字のことであり、それを用いて相手に何かを伝えようとすることと言い換えられます。
この『言葉』よりももう少し抽象的な概念・言い方として、『言語』というのがあります。
音声や文字によって、人の意志・思想・感情などの情報を表現・伝達する、または受け入れ、理解するための約束・規則。また、その記号の体系。音声を媒介とするものを音声言語(話し言葉)、文字を媒介とするものを文字言語(書き言葉)、コンピューターなど機械を媒介とするものを機械言語・アセンブリ言語などという。ことば。ごんご。げんぎょ。
デジタル大辞泉
『言語』は『言葉』よりも専門的だったり学術的な言い方として捉えて良さそうです。
以降は『言葉』も『言語』も、『言語』という言い方で統一して書いていきます。
というのも、『言語学』という学問に関する知識を解説していく必要があるので。
言語学における『言語』を簡単に解説
言語学という学問は聞き馴染みあるでしょうか?
「そんな学問もあるんだろうな」くらいの理解の方が多いように思います。
本当に簡単に言ってしまうと、言語学というのは言語を研究する学問です。
非常に多くの言語学者が様々な理論を展開していて、言語学の中でも○○言語学といった学派が多くあります。
そういった○○言語学の中でも、とりあえず共通していると考えられるのが、言語は記号だということです。
どういうことでしょうか?
例えば、自分の体に生じた感覚(痛みなど)を相手に伝えようとします。
そのとき用いるのは、音声言語(口で言葉を話す)かもしれませんし、文字言語(筆記・文字を書く)かもしれません。
そこで用いられる音や文字というのは、伝えようとする頭の中にあるもの(感覚やそれについての考え)を表現して相手に伝えるために置き換えられたものです。
頭の中にある感覚や考えは直接相手に伝えることができないので、一旦記号に置き換えて相手に伝え、それを相手の頭の中で解釈してもらう、という方法で感覚や考えの伝達を試みるわけです。
ここで重要なポイントが次の3つです。
- 頭の中の感覚や考えは直接相手に伝えられない
- 感覚や考えを伝えるため、言語という記号に置き換える
- 伝えられる側は、言語という記号を解釈・解読しなければならない
言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、私たちが日常的に行っている会話というのは、こうしたややこしいことを行っているわけです。
リハビリ場面の会話と言語(言葉)

理学療法場面の話に置き換えて考えてみたいと思います。
理学療法を行うとき、本人に体の状態や症状を確認せずに何かを行う・始めることはまずありません。
多くの場合、「どこが痛みますか?」とか「どこが動きづらいですか?」といった質問から始まるでしょう。
それに対して本人(患者さん・利用者さん)は自身の症状や感覚を(多くの場合、口頭で)伝えます。
その言葉を聞いた療法士は、その言葉を解釈し、感覚や症状を予想・想像し、それを確認するための作業を行っていくことになります。
既にお気づきのように、ここで行われているのが会話であり、用いられているのが言語(言葉)です。
多くの人が意識していないだけで、リハビリ場面では言語が当たり前に用いられているのです。
言語はなぜ伝わらないのか

なんだ、ややこしい言い方をしていたけれど、普段から当たり前に会話してるし、言葉を使ってるじゃないか。
言語学者でもないのに、そんなこと考える必要あるの?
言葉で伝えているつもりでも上手く伝わっていなかったり、伝わっている・理解できているつもりでも相手の意図が汲み取れていなかったりということは、実はとても多いのです。
そういった言語の性質や特徴を知っておくこと、それを踏まえて言葉を言ったり聞いたりすることが、この記事で伝えたい『言葉を大切にする』ということのメリットです。

多くの方が経験しているであろう例として、次のようなものがあります。
「そんなつもりで言ったんじゃないのに」
言ったこと、思ったこと、誰しも一度くらいはあるのではないでしょうか。
これは、言語もしくは言葉という記号を介した伝達が上手くできていなかったことを言い表しています。
この「そんなつもりで言ったんじゃないのに」は、次のプロセスのどこかでエラー・不具合が起きた結果として生じていると考えられます。
- 頭の中の考えを言葉に置き換える(話し手)
- 言葉を音声で伝える
- 聞いた言葉を解釈し、相手の意図を推測する(聞き手)
「そんなつもりで言ったんじゃないのに」を解決するためには、このプロセスのどこで不具合が起きたのかを点検して、修正していく作業が必要になります。
言葉による正確な伝達のために
では、具体的にどうすれば言葉による伝達を正確に行い、「そんなつもりで言ったんじゃないのに」を防ぐことができるのでしょうか?
取り得る対策として、次のようなものが挙げられます。
- 自分の解釈を伝え、確認する(聞き手)
- 違う言い方に言い換えて、相手の意図と合っているかを確認する(聞き手)
- いくつかの言い方で伝えてみる(話し手)
このような対策を繰り返すことで、話し手と聞き手との間の誤差や齟齬が修正されていき、共通の理解を作り上げることができます。
理学療法場面では、このような共通の理解をまず最初に作り上げておくことが、その後の成果や効果を高めるために不可欠ではないでしょうか。
クライアント(患者さん・利用者さん)が伝えたかった症状と療法士が解釈した症状とが違っていたら、ご本人にとっての症状とそれに対する対処法がズレてしまいますから。
そのため、理学療法士や作業療法士は、言語聴覚士とはまた違った意味・視点で、言語学というものを勉強しておく必要があるのではないかと考えています。
また、患者さん・利用者さんの側も、こうした言語の性質を少し知っておくと、相手に自分の症状が上手く伝わっていないと感じたときに修正することができるのではないでしょうか。
まとめ

冒頭で挙げた、理学療法場面で『言葉』を大切にすることで得られるメリットは次の3つでした。
- 本人にしか分からない感覚や経験を共有できる
- なぜそのような動き・症状になっているかを考える手がかりが増える
- 適切な病態解釈ができることで、適切な対策・対処が行える
クライアント自身の感覚や経験している症状というのは、そのままでは共有することができません。
そうしたものを療法士と共有しようとした場合、言葉を用いた伝達は欠かせないでしょう。
そこで『言葉』というのが記号であり解読が必要であるという性質を知っていることで、療法士は本人の話した言葉を正確に解読し、本人の感じている・経験している症状や、それを起こしている病態に接近することができるでしょう。
この記事を読まれた理学療法士のみなさんには、言葉を解釈しようとする姿勢や知識の必要性を感じていただけると幸いです。
理学療法場面における『言葉』や『言語』の必要性、活用法に関しては、これからも書いていきたいと考えています。
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