言語学

リハビリテーション場面でのコミュニケーションスキルを高める3つの方法

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リハビリテーション場面でのコミュニケーションスキルを高める3つの方法
新人療法士

コミュニケーションが苦手で、患者さんとの会話が続きません。

頑張ってたくさん話してみても空回りするだけ。

コミュニケーションスキルを高める方法ってないのかな?

コミュニケーションをとる上で重要なのは、話す量ではありません。

コミュニケーションをとる上で知っておきたいことを3つのポイントに分けて解説してきます。

まじぃ

新人・若手療法士や学生さんが苦労することの多いコミュニケーション。

「家族や友達とは普通に話せるのに、患者さん・利用者さんが相手になると何を話して良いのかわからない」

「話せば話すほど、患者さん・利用者さんとの話がかみ合わなくなってしまう気がする」

こんなことを感じる方は少なくないのではないでしょうか。

『言葉』もしくは『言語』というもののある特徴を知り、これから紹介する3つのポイントを抑えておくことで、コミュニケーションスキルを高めることができると考えられます。

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様々な分野・領域で理学療法士として勤務する中で、コミュニケーション、特に言語について考えることの必要性を感じてきました。

理学療法士に必要不可欠であると思われる言語に関する知識やスキルを紹介しています。

コミュニケーションで大切なのは言葉の量より質

缶を使った糸電話に話す人の画像
伝えようとするばかりがコミュニケーションではない

患者さん・利用者さんとのコミュニケーション、つまり会話が上手くいかないと、どうしても話す量を増やしてしまいがちです。

話すこと、発話というのは一つの運動です。

人は運動をするとき、その出力した運動の結果を知ることができないと、または感覚情報としてのフィードバックが少ないと、出力をどんどん強めようとしてしまうものです。

脳がそういうシステムになっています。

運動と感覚の関係についてはこちらでも解説しています。

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言葉の場合、コミュニケーションが上手くいかないと感じると、次のような悪循環になってしまうでしょう。

  • 話す
  • 患者さん(利用者さん)から期待した反応が得られない
  • コミュニケーションが上手くいっていないと感じる
  • 焦ってもっと話す
  • 患者さん(利用者さん)から期待した反応が得られない
  • やはり、コミュニケーションが上手くいっていないと感じる
  • 更に焦って、もっとたくさん話す
  • やっぱり、患者さん(利用者さん)から期待した反応が得られない
  • 以下繰り返し

心当たりはありませんか?

自分は頑張って、時には無理をして、たくさん話しているのに、相手には響かない。

こんなことを繰り返してしまうと、無力感を感じたり、落ち込んでしまいます。

「自分はコミュニケーションが上手くないんだ」

などと落ち込んでしまうかもしれません。

ぜひ、次に紹介するようなポイントを抑えて、コミュニケーションスキルを高めていただきたいと思います。

コミュニケーションで最も大切なことと3つのポイント

コミュニケーションをとる上で、最も大切なことは何でしょうか?

言葉を使ったコミュニケーションであれば、自分の話した内容が相手に伝わることではないでしょうか。

そこで、コミュニケーションスキルを高めるのに必要なポイントを3つに絞って提示します。

3つのポイント

  • 相手の言葉を理解する
  • 相手の言葉で話す
  • 考えるための沈黙を恐れない

この3つのポイントについて、それぞれ説明していきますね。

相手の言葉を理解する

コミュニケーションスキルを高めると言っているのに、1つめは相手の言葉を理解すること。

つまり、聞くことです。

焦ってたくさん話してしまうような場合、聞くことがとにかくおろそかになりがちです。

ここで参考になる一つの実験と、そこから導き出された理論を紹介します。

まずは引用しますが、恐らくよくわからないと思います。

後ほどどういうことか解説しますので、安心してくださいね。

見事なまでの単純明快なラボフの実験からは,いくつかの重要な結論を導き出すことができる。この後の議論では,事象(entity)は,その属性(attribute)に基づいてカテゴリー化されると仮定する。属性は,古典的アプローチにあるような二項的な構成物ではない。

J.R.Taylor著, 辻幸夫ら訳: 認知言語学のための14章 第三版, 紀伊國屋書店, 2008

ラボフの実験というのは、被験者に何種類もの『器の絵』を見せて、その絵に描かれた器が「カップ(cup)」「マグ(mug)」「ボール(bowl)」「花瓶(vase)」のどれに当てはまるかを答えてもらうというものです。

古典的アプローチ(古典的な理論・考え方のこと)では、「カップ」や「ボウル」は一つの決まった基準によって明確に区別されていると考えられていましたが、上記のラボフの実験の結果、その境界は曖昧なものであることが明らかとなったのです。

例えば、器部分の形状が同じでも取っ手が付いていれば「カップ」と答えるし、器の形状が深さに対して幅が広くなるほど「ボール」と答えるようになる傾向がある。

けれど、先に「ボール」と答えた形状の器でも、中に入っているものがコーヒーなら「カップ」になります。

一方、先に「カップ」と答えた形状の器でも、中に入っているものがマッシュポテトなら「ボール」になるのです。

このように、ある事象はその属性によって明確に区別されてはおらず、状況によって、または人によって変化しうるということです。

この話をコミュニケーションの話に戻すと、ある言葉の意味は明確に一つに決まっているのではなく、状況や人によってその意味している内容が変わるということなのです。

つまり、患者さん・利用者さんの話す言葉を聞いたとき、辞書通りの意味であったり、自分が理解している意味だけで理解しては、患者さん・利用者さん本人がその言葉に込めた意味を汲み取ることができないのです。

相手の言葉で話す

ここまで、相手の言葉を理解するということについて解説してきました。

これはつまり、相手が話した言葉を、辞書通りの意味であったり、自分が理解している意味だけで理解・解釈してはいけないということでした。

ここで言う『相手の言葉で話す』という場合の『言葉』も、同じく患者さん・利用者さんの『言葉』を指します。

確認しておかなければならないが、このリハビリテーション場面というのが誰のためのものなのか?ということです。

基本的に、患者さん・利用者さんのものであると言って差し支えないのではないでしょうか。

主役は患者さん・利用者さんであるべきです。

であるならば、コミュニケーションも患者さん・利用者さん主体でとられるべきですし、そこで用いられる『言葉』も患者さん・利用者さんの『言葉』が用いられるべきです。

ですから、『相手の言葉で話す』ためには、そもそも相手の言葉を聞いて理解しておかなければならない、そしてそれを繰り返し続けていかなければならないのです。

患者さん・利用者さんが話している内容が理解できてこそ、患者さん・利用者さんがその『言葉』をどういう意味で使っていて、何について話したいのか、更に言えば何を言って欲しいのかが見えてくるのです。

考えるための沈黙を恐れない

ここまで見てきて、次のように思う方が多いのではないでしょうか。

「ややこしい話だ」(こう感じたら既に離脱しているかもしれませんね)

「リハビリテーション場面でそんなこと考えていられない」

「会話の流れの中でそんなこと考えていたら、会話が続かない」

どれもその通りかもしれません。

だからこそ、考えるための沈黙を恐れてはいけないのです。

新人・若手療法士や学生さんは、とにかく沈黙が恐いようです。

沈黙が少し続くと、「何か話さなきゃ」と焦ってしまい、思ってもいないようなことを言って後悔します。

沈黙が続いて焦ってしまうのは、それが意味のない沈黙だからです。

沈黙の結果、より良い言葉がけ、つまりより良いコミュニケーションがとれるのであれば、沈黙にはメリットしかないのです。

あなたが患者さん・利用者さんの立場だとして、次のどちらが良いですか?

  • 途切れないけれど、適当に返されていると感じる会話
  • 途切れるし沈黙が続くけれど、何か一生懸命考えてくれているように感じられる会話

日常的な、友人や家族との会話なら①で良いかもしれません。

リハビリテーション場面で、体や動きを良くしたいと考えて参加している場面であれば、②を選ぶ方が多いのではないでしょうか?

まとめ

二人の女性が肩を組む後ろ姿の画像
理解しあうためのコミュニケーションスキルを

あらためて、コミュニケーションスキルを高めるための3つのポイントを示しておきたいと思います。

3つのポイント

  • 相手の言葉を理解する
  • 相手の言葉で話す
  • 考えるための沈黙を恐れない

人はどうしても出力すること、つまりこの場合は話すことを中心に考えがちです。

しかし、特にリハビリテーションという特殊な場面においては、患者さん・利用者さんを中心に考えなければなりません。

そのためには、コミュニケーションは聞くことから始めるべきです。

患者さん・利用者さんの言葉を聞き、考える。

考えてもわからなければ、その言葉が何を意味しているのか、患者さん・利用者さんが何を考えているのか、そのことについて質問すれば良いのです。

相手のことを知りたい、理解したいという気持ちがあれば、自然と会話は途切れることがなくなってきます。

そして、考える必要があるときには、沈黙を恐れないでください。

一生懸命に考えていることは、ちゃんと相手にも伝わっているものです。

理学療法士には、運動や体のことだけでなく、患者さん・利用者さんが話す言葉のことも深く考え、理解し、対応していくべきだと考えています。

オススメ関連書籍

ラボフの実験については、こちらの書籍から引用しました。

とにかく分厚いですが、認知言語学という分野を学ぶためには最良の一冊だと考えています。

厚みを考えると、とてもお買い得な一冊だとも思います。

もし、相手の言っている言葉を深く考えるため、言語について学びたいと考えている方は、一度手にしていただきたいと思います。

参考になる知見がたくさん書いてありますよ。

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