
理学療法士が心理学を学ぶべき理由

理学療法士は運動の専門家。
心のことなんて考える必要ないよね?
本当にそうでしょうか?
実は、理学療法士が心理学を学ぶことで、多くのメリットがあります。
今回は、理学療法士が心理学を学ぶべきである理由について解説していきます。

理学療法士が心理学を学ぶべき3つの理由
理学療法士は一般的に人の身体および運動の専門家と言われます。
それは間違いではないと思います。
では、なぜ身体や運動の専門家である理学療法士が心理学を学ぶべきなのでしょうか。
その理由として、次の3つが挙げられます。
- 心と体は切り離せない、相互依存の関係にある
- 理学療法の対象者は、病気やケガによって心理面にも影響を受けている可能性が高い
- 運動のパフォーマンスや練習の成果は心理状態の影響を受ける
この3点について、解説していきます。
こんな方にオススメ
この記事は、次のような方にオススメです。
- 解剖や運動について勉強しているけれど、なかなか思うような結果が得られない理学療法士
- 患者さん・利用者さんとの関わり方に悩む理学療法士
- 運動や練習の成果を高めたい全ての方
この記事を読むと…
- 理学療法士が心理学を学ぶべき理由がわかる
- 心と体が切っても切れない関係にあることが理解できる
- 運動や練習の成果を高めるために心理状態を考慮する必要性が理解できる
この記事を書いた人

筆者は理学療法士ですが、先日受験した公認心理師試験に合格し、公認心理師という資格を取得しました。
これは日本で初めての心理職の国家資格です。
理学療法士の中では心理学を勉強している方である筆者が、理学療法士が心理学を学ぶべき理由について解説していきます。
心と体の関係
とある有名なキャッチフレーズがあります。
「ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ、オリンパス」
https://www.olympus.co.jp/recruit/newgraduates/clerical/challenges/corporate/03.html?page=newgraduates
非常に有名なキャッチフレーズ(スローガン)ではないでしょうか。
これは企業広告のキャッチフレーズなので、本来こんなところで引用するべきではないのかもしれません。
しかし、少なくともこの言葉には『人間』というものを考える上で体のことだけを考えるべきではないということに気付かせてくれるヒントがあるように思います。
ココロとカラダでにんげんは全部なのか?
そもそも、にんげんはココロとカラダでぜんぶと言えるのでしょうか?
私の答えは、煙に巻くような答えで恐縮ですが、半分正解で半分誤りだというものです。
というのは、あまりに要素還元的な言い方だからです。
心と体というのは、それぞれが独立して存在してはいません。
例えば、『心身症』というものがあります。
心身症とは、各科が対応する身体疾患の内、発症や経過に心理社会的ストレスの影響で機能的(器質的)な障害を伴った疾患群です。日常生活で仕事や対人関係などの心理社会的ストレスに無頓着や無自覚な場合に発症・悪化することが多く一般的治療では改善困難です。身体症状と心理社会的ストレスの間にある“心身相関”の理解を心療内科は重要視します。
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease12.html
つまり、心の影響によって身体になんらかの症状が現れる状態です。
仮に体と心が独立して存在しているのであれば、体が心の影響を受けることはないかもしれません。
でも実際にはそうはなっておらず、身体はいわゆるメンタルの影響を受けているのです。
つまり、ココロとカラダで人間の全部なのではなく、ココロとカラダが相互に作用し合ったことによって、にんげんという全体が作り上げられると考えられるのです。
心と体の相互関係
上では心が体に影響を及ぼす『心身症』を例に挙げました。
ここでは、その逆、つまり体が心に影響を及ぼすことについて考えておきたいと思います。
理学療法士として仕事をしていると、次のような方に出会うことは多いのではないでしょうか。
骨折などの整形外科疾患の方で、術後経過は良好。にも関わらず、痛みが長引いたことで意欲の低下や運動・練習へのモチベーションが低下してしまい、リハビリテーション(リハビリ,理学療法)が進まない・効果が乏しい。
脳卒中による片麻痺の方で、練習に積極的に取り組んでいたが、麻痺の改善が思うように進まないことでモチベーションが低下。更に練習・理学療法の成果が上がらなくなり、悪循環となっている。
このように、病気やケガを負った方というのは、それ自体や、その後のリハビリテーションの中で、心理面に影響を受けている場合があります。
私の経験上、こういった方に出会うことは決して少なくありません。
このような場合、体のことだけを考える訳にはいかず、必然的に心の問題、更には心と体との相互関係について考慮する必要があると考えられるのです。
理学療法や『リハビリ』の効果を高めるために
心と体は切っても切れない関係にあり、お互いに影響し合うということを解説してきました。
では、理学療法や『リハビリ』の効果を高めるためには、我々理学療法士はどのようなことを考え、どのような関わりをすることが必要なのでしょう?
全ての対象者に共通した方法はありませんが、考えられる方法・関わり方を書いていきたいと思います。
話を聞く
理学療法士は、どうしても運動を行うことを重視しがちです。
それは、体を動かさないでいると廃用の影響によって身体機能・能力が改善するどころか、更に悪化してしまうことを知っているから。
それ自体はもちろん間違ってはいないのですが、運動や練習ができるような心理状態にない人に、ただひたすら
運動しましょう!
動かないと動けなくなりますよ!
家に帰るためには運動と練習が必要です!
なんて声かけを繰り返して、果たして効果があるでしょうか?
下手をすると、更なるモチベーションの低下を引き起こしてしまう可能性すらあると考えられます。
そんな場合には、少し落ち着いて、話を聞く時間を作ることはできないでしょうか。
いま、どんなことが不安ですか?
どんなとき(こと)に苦痛を感じますか?
そんなことを考えながら練習(運動)を頑張っていたのですね。
私たち理学療法士は、心理職ではありません。
心理支援を専門に行っているような心理師(士)さんのようなカウンセリングを行うことはできないでしょう。
しかし、上に挙げたような声かけや質問をし、対象者さんの言葉で表現される悩みや気持ちを聞くことはできるのではないでしょうか。
人の心の働きを(少し)知っておく
冒頭にも書いたように、私は公認心理師試験という国家試験に合格しました。
試験に向けた勉強を進める上で、心理学についてこれまで知らなかった知識を得ることができました。
そんな中で、臨床に応用できると感じる知識は多く、理学療法士もそういった知識を持っておくことで、臨床は大きく変わるのではないかと何度も思ったものです。
繰り返しになりますが、理学療法士は心理支援のメインで行う職種ではありません。
そうした心理支援は、心理支援をメインに行っている専門職である心理師(士)さんに依頼すべきです。
ただ、人の心の働きについて少し知っていることで、普段の臨床場面における対象者の方との関わり方、支援の仕方を、より良いものに変えていけるのではないかと思うのです。
今後も、理学療法士が知っておくべき心理学の知識については少しずつ紹介していきたいと考えています。
まとめ

今回は、理学療法士が心理学を学ぶべき3つの理由について解説してきました。
- 心と体は切り離せない、相互依存の関係にある
- 理学療法の対象者は、病気やケガによって心理面にも影響を受けている可能性が高い
- 運動のパフォーマンスや練習の成果は心理状態の影響を受ける
理学療法の対象が人間である以上、体のことだけを見て(考えて)いるのでは不十分です。
心と体がお互いに影響し合っているということを知るだけでも、臨床は少し変わるのではないでしょうか。
心理学など全く興味のなかった方、臨床で行き詰まりを感じている方の参考になっていれば幸いです。