心理学

リハビリ拒否?極端に意欲が低い3つの理由と対策

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リハビリ拒否?極端に意欲が低い3つの理由と対策
新人療法士

迎えに行っても断られてしまう患者さんがいるのだけれど、このままでは廃用で自宅退院も難しくなってしまう。

なぜリハビリを拒否するのかな?どう対応したら良いのかな?

理学療法士として10年以上臨床に携わる中で、断られてしまうことは少なくありませんでした。

今までの経験から、リハビリへの意欲が低い方に対応する上で考えておきたいことを解説していきますね。

まじぃ

私たち療法士は多くの場合、「仕事だから」という感覚よりも「その方に少しでも良くなってもらいたいから」というような考え・モチベーションで対象となる方に関わっているのではないでしょうか。

それなのに、断られてしまう。

特に新人や若手の療法士は、心を打ち砕かれて、どうして良いのかわからなくなってしまうでしょう。

『リハビリ拒否』という言い方はあまり良い言い方ではないと考えています。

というのも、いわゆる『リハビリ』を拒否する、つまり断るということが悪、参加することが当然で正しいことだというニュアンスを含むからです。

この辺りの考え方も含め、解説していきたいと思います。

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理学療法士のまじぃです。

病院で5年ほど色々な病棟での業務に携わった後、現在は訪問看護ステーションに勤務しています。

どのような病期(病棟や在宅)でも、いわゆるリハビリを嫌がる方はいらっしゃいます。

私自身も、そんな方への対応に苦しんだ一人です。

そんな中で考えたこと、実際に有効だった対応方法なんかを紹介していきます。

なぜ断られてしまうのか

そもそも、なぜ『リハビリ』を断られるのでしょう?

例えば回復期病棟で働く療法士からすれば、

「リハビリするために入院してるのに、リハビリしないなら意味ないじゃないか」

「リハビリして家に帰れるようになりたいんじゃないの?」

など、不思議で仕方ないですよね。

『リハビリ』を断られる理由、それは人によって異なるのはもちろんですが、それでも概ね次の3つに分類できる(重複する場合もある)と考えています。

リハを断る3つの理由

  • 自分がなぜ・なんのためにここ(病院)にいるのか、なぜ『リハビリ』が必要なのかわからない
  • 『リハビリ』で嫌な経験をした
  • 担当療法士が苦手(嫌い)

3つ目は療法士にとってはかなり辛い話ですね(笑)

けれど、人と人とが関わる以上、避けられない、目を背けることはできないことだと考えています。

一つずつ説明した上で、対策も考えていきたいと思います。

自分がなぜ・なんのためにここ(病院)にいるのか、なぜ『リハビリ』が必要なのかわからない

まずはこれですね。

『自分がなぜ・なんのためにここ(病院)にいるのか、なぜ『リハビリ』が必要なのかわからない』

これは病気やケガの種類によって、または病院や病棟の種類・特徴によって異なりますね。

整形外科疾患(骨折などのケガ)の場合には、比較的少ないかと思います。

もちろん整形外科疾患であっても、既往に認知症があるような方はこのタイプに分類されるかと思いますが、脳血管疾患で入院されている方に多いかと思います。

脳血管疾患で入院されている方というのは、多くの場合、意識不明で生死をさまよった状態から生き延びてきた方です。

自宅や外出先で突然意識を失い、次に目覚めたときには病院のベッド。

最近の急性期リハはとにかく早期離床を進めるため、訳が分からないうちに「リハビリをしなさい」と言われ、無理矢理起こされて立たされる。

上手く働かない、ボーッとした頭で考えて、経緯や状況の説明を受けるけれど、上手く理解できない。

こんな状況では、自分が今この病院に入院している理由、『リハビリ』が必要な理由もわからないですよね。

そして、そんな状況で「リハビリをしなさい」なんて言われても、「嫌だ」となっても不思議ではないと思います。

『リハビリ』で嫌な経験をした

2つめは、これまでの『リハビリ』場面で嫌な経験をしてしまったタイプです。

例えば、転倒しそうになってしまった経験から、起きること・立つことに恐怖心を持っている。

初めは積極的に『リハビリ』に参加し、努力したのに、思うような成果が得られずに無力感を感じてしまった。

このような場合、最初から断られるのではなく、初めは積極的だった方が急に塞ぎ込んだり『リハビリ』を断るようになります。

療法士としては、「昨日まであんなに頑張っていたのに、急にどうして?」と不思議に感じてしまうものです。

脳卒中後うつなどの可能性もあるため、あまりに落ち込んで見えたりする場合には早急に医師と相談する必要があります。

担当療法士が苦手(嫌い)

これは私たち療法士にとって辛い話ですね。

人と人とが関わる以上、相性というものは少なからずあると思います。

通常であればお互い大人になって、それなりに円滑な人間関係を構築できるものですが、病気などによって抑制が利かなくなってしまうことで、「嫌なものは嫌!」となってしまうのかもしれません。

もしかすると、関わる中で何か嫌なことをしてしまった・言ってしまったのかもしれません。

何もしていないのに、例えば年齢(若すぎる)などで偏見を持たれ、関わる以前にシャットアウトされてしまっているかもしれません。

どうしても、人はそれまで生きてきた社会や文化によって思考が左右されます。

「若い人に何かを教わるなんて恥だ」というような考え方を持つ方も、少なからずいるのが現実です。

『リハビリ』を断られる方への対応

ここまで、『リハビリ』を断られてしまう理由を3つに分けて考え、解説してきました。

では、このような場合に私たち療法士はどのように考え、どのような対応をすべきなのでしょうか。

ここで3つの対応・対策を挙げてみたいと思います。

所属する病院や部署の方針によってはできないこともありますし、状況によっては合わない対策もあると思いますが。

断られる方への3つの対応

  • 話を聞く
  • 接触を増やす
  • 他者に頼る

話を聞く

『リハビリ』を断られたとき、新人・若手はこう考えてしまうかもしれません。

「なんとか連れて行かなきゃ」

「早く動かないと、もっと動けなくなってしまう」

こんな焦った気持ちがあると、どうしても相手を説得しようとしてしまいます。

「リハビリしないと家に帰れませんよ」

こんなことを言ってしまってはいないでしょうか。

極端な例かもしれませんが、自宅に訪問販売(セールス)が来たとしましょう。

全く興味のない商品、なんなら嫌いな物をすすめられ、「買わないと損しますよ!」みたいなことを言われるわけです。

どんどん嫌になって、最初よりも不信感や忌避感が強くなりませんか?

「帰ってください!」と追い返したくなるでしょう。

『リハビリ』を断っている方も同じような心境のはずです。

嫌なものは嫌なのです。

嫌なものを押し付けられるよりも、それがなぜ嫌なのか?、本当は何が欲しいのか?といったことを聞いてもらった方が、心を開けるものです。

療法士は「リハビリに連れて行かなきゃ!」という焦る気持ちを抑えて、じっくりと話を聞く必要があるのです。

患者さんがご自分の気持ちを吐露してくれるのであれば、最初はそれがベッドの上、次はベッドやイスに腰掛けて、車椅子で散歩しながら、散歩しながら、ゆっくりと話を聞きましょう。

人間はからだだけでは機能できません。

こころも持っているのですから。

そして、こころとからだの両面からアプローチできてこそ、『リハビリテーション』なのではないでしょうか。

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接触を増やす

話を聞かせてもらおうとしても、なかなか話していただけない方もいます。

「うるさい!」

「ほっといて!」

「話すことなんてないよ!」

こんな風に追い返されてしまえば、取り付く島もありませんね。

こんなときに「話を聞かせてください!」と迫っても、あまり良い結果にならないことが多いように思います。

では、どうしたら良いでしょう?

こんな場合は、接触を増やすことが有効だと考えます。

接触と言っても、体に触れるということではありません。

例えば、

  • 廊下などですれ違うときに挨拶する
  • 病室に寄って声をかける(体調を聞くなど)
  • (大部屋の場合)同室の患者さんとの会話を聞かせる/できれば巻き込む

こういった意味での接触を増やすということです。

心理学の用語(理論)で、『単純接触効果』というものがあります。

ある対象への反復接触がその対象への好意度を高めるという単純接触効果は古くから知られている現象である.

生駒忍: 潜在記憶現象としての単純接触効果, 認知心理学研究3(1), 113-131, 2005

つまり、人は接触を繰り返すことで、その接触を繰り返した相手に対して好意的な印象・感情を持つという反応です。

直接『リハビリ』に誘うのではなく、このような接触の回数をとにかく増やすことによって、相手(この場合は患者さん)にとって自分の好意度を高めるということを意図して接触するのです。

この場合、できるだけネガティブな印象を持ってもらいたくないので、『リハビリ』という単語は出さず、淡白に関わるということが重要です。

「あ、またリハビリの人が来た…」

と思わせるのではなく、

「なんかいつも挨拶してくれる人がいる」

「この人とはよく会うなぁ」

「他の患者さんといつも楽しそうに話している人だなぁ」

こんな印象に置き換わってくれれば、少しずつ話をしてくれたりするかもしれません。

療法士が心理学を少し知っていると、このような応用も可能になると考えています。

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他者に頼る

このように様々な施策をとっても、なかなか難しい場合は少なくありません。

自分一人の力ではなかなか上手くいかなければ、他者の力を借りましょう。

職場や所属の方針によっては、担当を変えられる場合もあるでしょう。

自分の力不足を悔やむかもしれませんが、お互い(患者さんと療法士)の利益を考えた場合、担当が変わって円滑に進むのならそれが一番かもしれません。

しかし、担当は変えられず、「自分で工夫してね」というスタンスのところもあるでしょう。

その場合、一人で挑むのではなく、他者の力を借りるのです。

例えば、

  • 患者さんが信頼している人(看護師・療法士など)と一緒に訪室し、紹介してもらう
  • 患者さんが信頼している人(看護師・療法士など)に送迎のみお願いする

といったような方法が考えられます。

またセールスの例になってしまいますが、全く知らない業者がいきなり来るよりは、知人から紹介された業者の方が少し信用できる気がしませんか?

それでも上手くいかない場合には、やはり担当の変更なども視野に入れて相談すべきかもしれません。

少なくとも、このような問題は一人で抱え込むのではなく、他者に頼っても良いんだという心構えで対応することが大切だと思います。

それは他人任せにするとか、無責任で良いとか、そういうことではありません。

自分で考え、責任感は持つけれど、一人で抱え込まない。

一人で対処できない問題は、他者(例えば所属長や上司)に相談してでも解決することこそが、責任を持つということです。

問題に上手く対処できず、頭を抱えるだけでいる方が、無責任というものです。

上司によって考え方や対応は様々かと思いますが、本来上司や管理職というのは、そのためにいるのですから。

まとめ

ハイタッチする二人の画像
『人と人』としての関係作りが必要

今回はリハビリを拒否されてしまう、リハビリへの意欲が極端に低い方の、その原因と対策について解説してきました。

3つの原因を挙げましたが、人間誰しもが持ちうる感情・情動から出発しているものだと言えます。

また、対策も3つ挙げましたが、どれも『人と人』という構図で関わるということです。

療法士として働いていると、知らず知らずのうちに『患者と療法士』という構図で関わってしまいがちです。

しかし、この構図では今回のリハビリ拒否のような問題が起こりやすいものだと考えられます。

ぜひ、『人と人』という構図で関係を構築できるよう、常に心構えを持っていていただきたいと思います。

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